向かいのお兄さん
第30章 ありのままがいい
『化粧落とすから…離してよ…』
「水で落とすもんじゃないだろ」
『頑張れば落ちるもん…』
化粧なんて、落としてしまいたかったから…
泣いているのを
知られたくなかったから…
あたしは手の平で目の辺りをゴシゴシと擦った
「やめろって…!!」
直也は今度は
あたしの手を取って止めた
『何さ…あたしの化粧なんて…見たくないなら
止めないでょ…』
「…」
直也はあたしの頭に顔を埋めた
『…直也?』
「…」
『離して…』
「…あのな」
直也はゆっくりと顔を離し、手の力も緩めた
あたしを自分の方に向け、そっと笑ってくれたんだ
「ごめん」
『…』
「今日は、帰ろ?」
あたしの手を引っ張ると、
直也は歩き出して
席に置いてあったバッグも掴むと、店を出た