
願わくば、いつまでもこのままで
第10章 後悔
「比奈ちゃん。座ったら?」
俺が声をかけると
虚ろな目が向けられた。
怖い
一瞬首筋が凍るように思えたが
比奈ちゃんの目にしだいに色が戻っていく。
はっきりとなったその瞳には
つぎにはだんだん涙が滲んできた。
「比奈、ちゃん……」
目の前の彼女への心配が
足を立たせ手を動かせる。
比奈ちゃんの元へ行くと
俺の手はいまにも落ちそうな
比奈ちゃんの涙を拭った。
だが比奈ちゃんは何も言わずに
俺の手をとると
その手を下に下ろす。
俺の横を通り、椅子に腰をおろした。
少しショックだった
だが仕方ないと、当たり前だと思った
愛する夫が……
危ない状況にあるのだから
俺も静かに比奈ちゃんの隣に腰をおろした。
その後は
何も話せなかった。
