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願わくば、いつまでもこのままで

第11章 邪魔者が一人





窓のそばに伸びている木の枝に


茜色の夕焼けがさしかかる






「私、そろそろ行くね」




椅子から腰を上げ

バッグを手に取る。





「悪いな、比奈
家のことはよろしく頼むよ」



「はい」




「またね」と言いながら
扉を開けて和君へ振り向く。


彼は何も言わず
視線を送る。




見送られながら

私は病室をあとにした。


































扉が開く。



「泉さん。どうされました?」



若い看護師だ。




「すいません。
体調の問題ではないんですが……」



「あら。
でもナースコールしたでしょう?」




首を傾げる看護師に

あごで棚の上のカバンをさす。




「それ、貴重品が入ったかばんです
今日……妻が、持ってきてくれて」



「はあ」




「その中から携帯とってくれませんか」





看護師は一目こっちを見てから

遠慮しがちに手を入れて携帯を探す。




携帯をかばんから出すと
戸惑いながら口を開いた。




「誰かにご連絡ですか……?」



「ええ。
俺は手がまだこの調子なので
手伝っていただきたいんです。」





「それは構いませんが……」





「電話したいんです
アドレス帳から探してくれませんか
泉陽の名前を」








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