
願わくば、いつまでもこのままで
第8章 変化
タクシーを見ると、
比奈ちゃんは顔つきを変えてタクシーに駆け寄った。
ちょっと嬉しそうに
でも眉を潜めて
俺は、なんだなんだと思いながら
呆然とその様子を見ていた。
ガチャ
タクシードアが開く。
「ありがとうございましたー」
2人の男を降ろすと
タクシーはまた闇の中へ走って行く。
その2人とは
冴えないサラリーマンと酔い潰れた兄貴だった。
「奥さん、お待たせしてすいません」
「いえ、こちらこそ主人がご迷惑をおかけして……
和君。大丈夫?起きて、和君」
サラリーマンが支えていた兄貴を
比奈ちゃんが受け取るように体に手を回す。
二言三言、話すとサラリーマンは帰っていき
比奈ちゃんは独りで兄貴を支えながら歩きだす。
俺はそこで我に気づき
比奈ちゃんの元へ駆け寄る。
「比奈ちゃん、俺も手伝うよ」
「いい。独りで大丈夫だから」
「何言ってんだよ。
部屋で運べばいいんだよね?」
俺が兄貴の肩に手を回そうとすると
比奈ちゃんの顔が険しくなった。
「いいって言ってるでしょ!!
私は大丈夫だから
陽君はもう、自分の家に帰って」
「!…………ごめん、じゃあ……」
俺は比奈ちゃんに背を向け
帰路を歩き始める。
何度か振り返りそうになったが
結果1回も後ろを見ることはなかった。
