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Yの記録

第2章 9月10日 誘い

そこでTはグラスのスコッチを飲み、一息ついて今度は声を潜めて続けた。
「その女性たちは特別なお客に完璧な満足を与えるために買われていくんだ。Yさんにはその女性たちの性的な部分の指導をして欲しい。」


「なぜ、あたしなの?私の事、そんなに知らないでしょう?私がその仕事をできると思って?」
私はTに視線をまっすぐに向け言葉よりも穏やかな口調でゆっくりとTに言った。

Tはその言葉にあたりを少し見回すように視線をはずして、
「……あぁ、もちろんいきなりって訳ではない。実は貴方をスカウトするように言った人がいるんだ。
 それは一般には僕の上司にあたる人でね。実はその人は貴方がこの仕事を請けてくれるならきっと会うことになると思う。そんなわけで僕は貴方をなぜこの仕事に誘うのか、その訳は知らないんだ。」

「その人は私の事を知っているの?」

「それは分からない。僕自身、あまりその人の事も知らないんだ。」

Tはこの話を終わらせたいのか、少し強めの口調で、
「Yさん、この仕事を請けていただけないのなら、これ以上の質問は断ります。我々の仕事はそれなりに守秘義務があるのでね」
Tは最後ににやりと口元をゆがめて言った。
私にはTのその表情がひどく年老いた表情に見えた。

「いつから始まるの?」
Tに向かって、小さく、しかしはっきりと言った。

私は初めにこの話を聞いたときからやるつもりだった。
いや、もしかしたら天職にかもしれない。私は酒に痺れてきた頭でそう思った。

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