
1ぺーじすとーりーず
第9章 雪男
彼はもういない。
僕が悪いんだ。
僕が彼を愛さなければ、彼は死なずにすんだのに。
去年の1月に彼に出会って、夏に思いが叶った。
僕の一番嫌いな季節に、最愛の人が僕の手を取ってくれた。
11月の始めから雪が沢山降って、彼は雪が好きだと笑った。
僕の冷たい体を抱き締めて。
だけど彼はもういない。
今年の1月、彼は山神様の生け贄された。
雪が多すぎた。そんな理由で人間達は山に通う彼を山神様の祠に閉じ込めた。
山神様は僕への罰として目の前で彼を蹂躙した。
その時彼は僕にこう言った。
「僕は雪が好きだよ。」
彼の最後の言葉。彼はそのまま舌を噛み切った。
涙の中にあった満足げな笑顔が忘れられない。
「うああぁぁぁああぁぁ!!!!!」
悲鳴とも叫びとも取れる悲しい声が山に響き渡る。
1000年の孤独を癒やした彼はもういない。
あとを追う事も許されない。
もうあなたを愛さない、あなたが幸せならそれで良い。だからもう一度だけ、あなたに会いたい。会いたいよ。
その年、村は例年に無いほどの豊作に見回れた。
雪解け水が豊富にあり、夏は作物に取って一番の気候が続いたから。
だが、その年の冬から雪が降らなくなった。次の年も、その次も。それどころか、7月を過ぎても氷点下の日々が続いた。
次第に村人たちは川が枯れて米が実らず、死んでいった。
新しい生け贄は祠に入れた日の夜に惨殺され、凍っていた。
雪女の伝説。
雪女が恋をしたら、その年は豪雪らしい。
雪女と人の間に生まれた雪男も同じく、人を愛すれば愛する程人を苦しめてしまう。
そして、豪雪の後にある実りを人は山神の加護だと言う。
「人間は本当に愚かだ。」
雪男は静かに涙を流した。
