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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 治助に十分な治療を―、その言葉は小文の心を揺さぶった。だが、小文の決意は変わらなかった。小文の幸せは、治助の傍を離れてはあり得ない。それは多分、治助も同じだ。
 そして、小文は治助の生命が長くないのならば、尚更その傍にいたいと思う。天主堂に通うようになって、もう運命に逆らうのは止めた。ただ、あるがままの与えられる運命(さだめ)を受け容れると決めたのだ。神が治助を自分から奪うというのならば、その運命も―辛いけれど、受け容れよう。その上で、残された時間を治助と二人で大切に生きてゆきたい。治助との想い出を一つでも多く作りたい。
「小文―」
 治助の眼に涙が光った。
 小文は治助の背に手を回し、そっと引き寄せた。治助の痩せた身体を抱きしめながら、顔を近付ける。間近に治助の顔があった。
 唇を重ねようとした小文から治助が顔を背けた。

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