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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 相手は関白殿下―、即ち豊臣秀吉である。本能寺の変で非業の死を遂げた主君織田信長の仇を討ち明智光秀を滅ぼした秀吉は、今や天下人であった。関白太政大臣として位人臣を極めた秀吉は元は百姓の倅である。少しも偉ぶったところのない飄々とした人柄はどのような人をも魅了し、加えて猿面を思わせる滑稽な顔立ちは気さくな人柄を反映し、下々の者にまで人気があった。
 秀吉はけして美男ではない。どころか、亡き信長にも「猿」と呼ばれたように、醜男である。秀吉には十指を越える側室がいた。それでもなお、彼が側に仕える女性たちからも愛されるのはその人柄によった。が、秀吉にもただ一つ欠点があった。それは稀代の女好きという点である。英雄色を好むの諺ではないが、秀吉は稀代の好色家であった。

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