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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 秀吉は自分が百姓の出身ゆえか、高貴な女性を側に置きたがった。彼の後宮には名家出身の美女が侍り、その筆頭には信長の姪である淀殿茶々などがいる。
 折しもこの時、秀吉は畏れ多くも禁裏の帝に拝謁するため上洛していた。この日は洛内を視察という目的で華やかな行列を仕立てて練り歩いていたのだ。視察という名目ではあったけれど、実際は己れの権勢を世間に誇示するための顔見世興行であった。
 小文は白馬に跨る武将を手をつかえたまま見上げた。その視線の先に壮年の男の顔があった。いや、この時秀吉は既に五十歳を過ぎていたから、壮年というよりははや老齢の域に差しかかっていた。しかし、彼(か)の織田信長でさえ完全にはなし得なかった天下統一の偉業を成し遂げた男の貌(かお)はまだ十分に若さを残していた。

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