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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 射抜くような眼光鋭い瞳は、底なしの沼のように何の感情も読み取れない。上辺は「猿」と評判どおり、いかにも親しみやすい物腰だが、その眼はけして笑ってはいなかった。
「名は何と申すのだ、応えよ」
 重ねて問われ、小文は控えめに言上した。
「小文と申しまする」
「小文―か。そなたには相応しき良い名だな」
 存外に力強い声が応え、秀吉は小文をじろりと一瞥した。まるで、何者もの心の底まで見通すような眼だ。じっと見据えられ、気丈な小文も知らず身体が震えた。
 絡みつくような粘着質な視線が容赦なく小文に注がれている。着物を剥がれ、身体中を手のひらで執拗に撫で回されるような不快感を憶え、小文は思わず眼を伏せた。身体中の肌が粟立っていた。

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