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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

「小文、予の側近く仕えぬか」
 思いがけない言葉に、小文は固まった。
 秀吉はうっすらと笑んでいる。笑うと、意外にも親近感の持てる印象になった。相手を萎縮させるほどの鋭さが消えて、代わりに猿面のような剽軽な表情になる。
「あの―」
 小文には「側に仕えよ」という台詞の意味が咄嗟には理解できなかった。秀吉の視線がふと戸惑う小文の襟許で止まった。
 平伏した拍子に、首に掛けたロザリオが着物の上に出ていたのだ。
「―?」
 小首を傾げた小文の胸で銀の鎖がさらりと音を立てて揺れ、十字架が眩しく陽光にきらめいた。
 刹那、小文は胸に手をやり、ハッとした。
 秀吉の視線は小文のロザリオに向けられている。秀吉の貌から笑いが消えていた。

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