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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 つい先頃、秀吉は国を乱す邪教として基督教を禁止する触を全国に出している。この頃はまださほどに切支丹(キリシタン)への取り締まりは厳しくはなかったが、既に小文が一年前入信した当時のように大っぴらに信仰することは許されない状況にあった。かつて南蛮寺(天主堂)で行われていたミサや集いは中止され、小文の心の拠り所であった天主堂は近々取り壊されるという専らの噂である。
 小文の視線と秀吉の視線が一瞬、宙で絡まる。寒い季節でもないのに、小文の背につうっと冷たい汗が流れた。凍てついた眼差しが無表情に見つめている。無言の秀吉が怖ろしかった。
 が、しばらく小文を見つめていた秀吉は何を思ったか、突然、小文から視線を逸らせた。
 どうやら、小文の背後の店を見ていたらしい。店の前には小さな看板が掛かっていた。

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