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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 あれほどの人物ならば、でうす様の教えなどは必要もない、それほどの確固たる自信と信念を持っているのだろうか。小文はとりとめもない頭でそんなことを考えた。
 後年、この秀吉が幼い我が子秀頼のために、罪なき甥秀次やその妻妾、幼子らを虐殺するなぞ小文は考えられもしなかった。だが、小文の眼には不動の英雄として映った秀吉も現実には我が血を分けた子に跡を継がせたいという妄執に囚われた、弱きただの人間にすぎなかったのである―。
 茫然とする小文の前にどこから流されてきたのか、色の薄い花びらがひとひら、そっと舞い降りた。小文が思わず手を伸ばすと、小さな花びらは白い手のひらを逃れ、地面へと落ちた。

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