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ライフ オブ ザ マウンテン

第5章 6

驚いたのはマーサが、僕に面会に来ることだった。あの時、何故警察に通報したのかを問うと「あ
なたはここで変われると思ったから。今までずっと辛い経験したのは分かっていたし、それを助けられなかったのは私も悪いと思っているの」僕は勘違いしていた。時々、警察が家に訪ねてきたことがあったが、それはマーサが警察に話してくれていたというのも聞かされ、僕は今までにない程、涙を流した。たったそれだけの事と思うかもしれないが、とにかく本当に嬉しかった。人の優しさというのは何て素晴らしいのだろうと思った。この時を境に週に一度は僕に会いに来てくれて他愛ない話をし、共に笑いあったり世の中の出来事を話してくれた。ある時、僕が何日間かだけ外出できる前の日にマーサがある情報を教えてくれた。それは誰も頂上まで登った事がなく、天候も非常に変わるため、また遭難しやすいということもあり、「悪魔の山」と恐れられているという事だった。「雪崩もあって死者が続出してるみたい。挑戦する人はいるみいだけど登るのは難しいみたいね」
「僕が一番上まで登れたらマーサはどう思う?」
マーサは不思議そうな表情を浮かべた。「それはすごいことよ。でも死んだらなにもならないわ。」
「そうだね。そう思うけど、頂上までいったらきっと有名になれるだろうな」
僕は既に心に決めていた。その山に登れば自分の存在がわかるかもしれない、そう考えていた。
外出許可が下り、僕はある程度準備をしてその後で山に向かうことにした。といっても登山用具は揃えていなかった、お金がなかったし、でもマーサから少しお金をもらったから防雪服を買うぐらいの事はできた。それと何日分かの食べ物も。 そうして無謀ながら山に向かった。


これが僕の一通りの人生、そしてこの山に挑んだ理由だ。頂上まではもう少しではあるけど、寒さで手の感覚はないし、足はろくに動くこともできなかった。食べ物も底をついたから、もう生きて帰る事はできないだろう。結局、僕の人生とは何だったのか、生きるとは何だったのか、最後までそれを知ることが出来なかった。けど、ここまで頑張ったんだから、今まで何かに対して頑張ることがなかったんだから良いことだったんじゃないか。僕はそっと目を瞑り、静かに死を待とうとした。

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