とある隠れ変態の物語
第6章 エンジェル羽恋と初デート
一人は分かる。
B組の伊沢 華多。
羽恋とはまた違った可愛らしい見た目。
ただ彼が羽恋と圧倒的に違うのは男女両方から支持を受けてるってこと。
羽恋はその可愛さゆえに女性から恨みを買うことが多いみたい。彼女持ちの子が羽恋好きになっちゃって振られちゃったとか。伝説が沢山ある。本人としては不本意だろうけど。
伊沢くんは上手いんだよね、会話、表情の作り方。全てにおいて。
まぁ、接客業のカリスマだから納得なんだけど。
何でそんなことを知ってるかは……今は考えたくない。
いろいろ、いろいろあったんだ。
とにかく彼は面倒くさい。やっかいだ。この状態の羽恋がもしもばれたら。
間違いなく営業に使われる。
つまり、お金の発生する場に。
そしてその彼の隣にいるのは……うーん。同じ学年ってことしか分からないや。
何にしても隠れないと。
いまだ真っ赤なほほをした羽恋の手首を掴んで引き寄せる。こうなったら問答無用だ、仕方ない。
近くの裏路地にするりと身を隠して抱き寄せる。
「…………!?な、尚――」
「静かに。ばれちゃうと困るから」
「ん?」
「近くに、同じ学年の男子が居たんだ。もしも羽恋だってばれたら困るから。この格好じゃ」
耳元に口を寄せてかすれた声で小さく囁く。
くすぐったかったらしく、もぞもぞとするのを閉じ込めるようにさらに強く抱きしめた。
「苦しいかもしれないけど、我慢して。……ごめんね。オレが無理言ったから」
首を横に振るのが抱きしめた腕の中でよく分かる。
優しすぎるよ、この子は。
真横を通り過ぎていく伊沢くんをなんとなく視界の端で捉えて。
緊張と共に
彼はそのまま端から消えた。
ホッと息をついた。
なのに。
なのに。