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帰り道の映画館

第1章 1

「何処までですか?」
手に着いた物の気持ち悪さを顔に出さないように必死になりながら聞く。
「次の駅なんで大丈夫です、すみませんありがとうございます」
顔を手で覆いながら彼は答えた。
その直後彼のポケットの中のケータイが鳴り出した。
横を見るとおばさんが私たちを睨んでいる。おばさんが口を開いた。
「マナーモードにしなきゃだめでしょっ」
嫌な言い方だ。
彼も静かに「すみません」と言うと、ナチュラルに電話に出た。
「あ、真由。ごめん俺、今電車なんだ。後で書け直すから、え。ああ、行けなくなった。ごめんね・・・?」
なんでよっ、という抗議の声が電話が口から聞こえる。彼女だろうか?
彼の返事の声と顔の表情とが一致しない。声は落ち着き払っているのに、表情はガタガタと震えているように見える。

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