庭師-ブラック・ガーデナー-
第2章 1
それから母は、父の看護を叔母に頼んで何度か上京し、マンション探しを手伝ってくれた。ほぼ一か月後、私は数十件の候補の中から「エクセシオ三山」というマンションを選び出した。
ここが気に入ったのは、特に惹かれるものがあったというより、これと言った欠点が見つからなかったためだ。その他の物件は、エントランスのデザインをホテルみたいに派手にしたり、ごてごてのキャッチコピーで飾ったりしている割には、どこかしら不便なところがあった。
駅から遠すぎたり、間取りが使いにくかったり、予算が折り合わなかったり、オートロックじゃなかったり。「エクセシオ三山」は、とりたてて目を引くわけではないが、難点もない物件だった。
場所は、いま私が住んでいる街から三駅ほど離れているが、住み慣れた沿線なので安心感があった。駅から徒歩五分と近く、夜中に一人で帰ることになっても暗い道を通る心配がない。商店街が近いし、環境も悪くない。五階建十室の小さなマンションで、一階は駐車場になっている。二階に四室、三階に三室、四階に二室、五階に一室と、上にいくほどすぼまった台形をしており、私が買う気になったのは三階の東南角部屋だった。
五十五平米の2LDK、二千七百万円。入り口はオートロックで、ケーブルテレビやBSアンテナも設置済み。浴槽乾燥機や洗浄器もついている。施工主は聞いたことのない会社だったが、それはマイナスにはならなかった。マンション購入マニュアル本や雑誌によれば、名前の通った会社だからといってうかつに信用してはいけないのだ。
建物ができてもいないのにモデルルームだけ見せて販売してしまうような物件も少なくないが、「エクセシオ三山」はもう三か月ほど前に完成して、すでに八室が完売しているということだった。販売会社の担当員の説明は丁寧で好感がもてた。高級ではないが堅実な印象がした。
自己資金は貯金と親からの援助だが、贈与にすると税がかかるので、母と私の二人の名義で買うことになった。あれよというまに契約が成立し、諸々の手続きもスムーズに運び、エクセシオ三山三○三号室は私のものになった。
引っ越しの準備を整える一方で、仕事のほうも再開しなければなかった。不義理をしてしまったいくつかの編集部に電話を入れ、また仕事を回してもらえるよう頼んだ。
ここが気に入ったのは、特に惹かれるものがあったというより、これと言った欠点が見つからなかったためだ。その他の物件は、エントランスのデザインをホテルみたいに派手にしたり、ごてごてのキャッチコピーで飾ったりしている割には、どこかしら不便なところがあった。
駅から遠すぎたり、間取りが使いにくかったり、予算が折り合わなかったり、オートロックじゃなかったり。「エクセシオ三山」は、とりたてて目を引くわけではないが、難点もない物件だった。
場所は、いま私が住んでいる街から三駅ほど離れているが、住み慣れた沿線なので安心感があった。駅から徒歩五分と近く、夜中に一人で帰ることになっても暗い道を通る心配がない。商店街が近いし、環境も悪くない。五階建十室の小さなマンションで、一階は駐車場になっている。二階に四室、三階に三室、四階に二室、五階に一室と、上にいくほどすぼまった台形をしており、私が買う気になったのは三階の東南角部屋だった。
五十五平米の2LDK、二千七百万円。入り口はオートロックで、ケーブルテレビやBSアンテナも設置済み。浴槽乾燥機や洗浄器もついている。施工主は聞いたことのない会社だったが、それはマイナスにはならなかった。マンション購入マニュアル本や雑誌によれば、名前の通った会社だからといってうかつに信用してはいけないのだ。
建物ができてもいないのにモデルルームだけ見せて販売してしまうような物件も少なくないが、「エクセシオ三山」はもう三か月ほど前に完成して、すでに八室が完売しているということだった。販売会社の担当員の説明は丁寧で好感がもてた。高級ではないが堅実な印象がした。
自己資金は貯金と親からの援助だが、贈与にすると税がかかるので、母と私の二人の名義で買うことになった。あれよというまに契約が成立し、諸々の手続きもスムーズに運び、エクセシオ三山三○三号室は私のものになった。
引っ越しの準備を整える一方で、仕事のほうも再開しなければなかった。不義理をしてしまったいくつかの編集部に電話を入れ、また仕事を回してもらえるよう頼んだ。