庭師-ブラック・ガーデナー-
第2章 1
私はカッとなったが、まさか未就学児を相手に「バカはそっちだ!」と言い返すわけにもいかず、むっと唇を結んで子供を睨むことしかできなかった。
しばらく睨み合っていると、マンションの入り口の扉が開いて、女性が出てきた。花柄のショッピングカートを押したおばあさんだ。
おばあさんはよたよたと私たちのほうへ近づいてきた。女の子は分が悪いと思ったのか、後じさりながら私に向かって顔をしかめ、「死ね、クソババア」と叫んで駆け出して行ってしまった。
唖然としていると、おばあさんが声をかけてきた。
「あの子、また悪さしてましたか」
どうやら、この犬の飼い主らしかった。おばあさんが網をほどいてやると、犬は喜んではしゃぎ回った。
「犬をいじめてたんです」
答えると、おばあさんは犬を抱き上げて頬ずりしながら、怒りをこめた口調で言った。
「困ったもんですよ。大人の目を盗んで、悪いことばっかりするんだから。どういうしつけをしてるんだかね」
私たちはしばらく立ち話をした。彼女はこのマンションの住人で、犬の散歩がてら買い物に出ようとしたのだが、財布を忘れたことに気づいて、犬をつないだままちょっと部屋に戻ったのだそうだ。その隙に、女の子が犯行に及んだらしい。
「私、昨日引っ越してきたばっかりなんです。三○三号室の寺内といいます。よろしくお願いします」
頭を下げると、おばあさんは笑顔になって頭を下げ返した。
「こちらこそよろしく。四○二の野末です。今の女の子は、このマンションの五階に住んでる林原さんちの子なんですよ。気をつけたほうがいいわ、ほんと、悪い子なんだから」
「あんなに小さいのに」
「まだ幼稚園なんですよ。なのに、うちのココアをいじめたり、花壇の花を抜いたり、やりたい放題。注意すると、『死ね、ババア』ですからね。まったく、最近の子はどうなってるんだか……」
ココアというのが犬の名前らしい。濃茶の毛の色から名づけたのだろう。ココアは賛同するように鳴き、野末さんは可愛いくてたまらないように目を細めて犬に頬ずりした。
しばらく睨み合っていると、マンションの入り口の扉が開いて、女性が出てきた。花柄のショッピングカートを押したおばあさんだ。
おばあさんはよたよたと私たちのほうへ近づいてきた。女の子は分が悪いと思ったのか、後じさりながら私に向かって顔をしかめ、「死ね、クソババア」と叫んで駆け出して行ってしまった。
唖然としていると、おばあさんが声をかけてきた。
「あの子、また悪さしてましたか」
どうやら、この犬の飼い主らしかった。おばあさんが網をほどいてやると、犬は喜んではしゃぎ回った。
「犬をいじめてたんです」
答えると、おばあさんは犬を抱き上げて頬ずりしながら、怒りをこめた口調で言った。
「困ったもんですよ。大人の目を盗んで、悪いことばっかりするんだから。どういうしつけをしてるんだかね」
私たちはしばらく立ち話をした。彼女はこのマンションの住人で、犬の散歩がてら買い物に出ようとしたのだが、財布を忘れたことに気づいて、犬をつないだままちょっと部屋に戻ったのだそうだ。その隙に、女の子が犯行に及んだらしい。
「私、昨日引っ越してきたばっかりなんです。三○三号室の寺内といいます。よろしくお願いします」
頭を下げると、おばあさんは笑顔になって頭を下げ返した。
「こちらこそよろしく。四○二の野末です。今の女の子は、このマンションの五階に住んでる林原さんちの子なんですよ。気をつけたほうがいいわ、ほんと、悪い子なんだから」
「あんなに小さいのに」
「まだ幼稚園なんですよ。なのに、うちのココアをいじめたり、花壇の花を抜いたり、やりたい放題。注意すると、『死ね、ババア』ですからね。まったく、最近の子はどうなってるんだか……」
ココアというのが犬の名前らしい。濃茶の毛の色から名づけたのだろう。ココアは賛同するように鳴き、野末さんは可愛いくてたまらないように目を細めて犬に頬ずりした。