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三日月の夜に

第3章 疑惑

星夜は、ドキドキしていた。


こんな気持ちになったことが、かつてあっただろうか。


そうだ。花織と交際を始めたばかりの頃はこれに近い気持ちだったかもしれない。

しかし、それとはまた違う………それよりももっと激しい情熱が星夜をさいなんでいた。

この美しい女性から、視線がはなせない。

その心は完全に彼女にとらわれていた。

その髪に触れたい……いや、触れてはいけない。こんなに美しいものを、汚してはいけない。

そうして星夜は、ただただ彼女を見つめるだけだった。


星夜はぼんやりしたまま、夫婦二人の、今は花織のベッドを整え、彼女を案内した。

「僕はソファで寝てますから……ここを使って下さい。妻は帰ってきません……」


もっと見つめていたい。

でも、一晩同じ部屋で過ごすわけにはいかない。

星夜は部屋を出る前に立ち止まり、ふりむいてもう一度彼女を見た。


彼女はカーテンをあけて、月を見つめていた。


そのあまりの美しさに、星夜はすっかり心奪われて動けずにいた。

「行かないで下さい…わたしと、一緒にいて下さい…」

彼女が、言った。

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