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職業、遊び人ですが?

第1章 女勇者と遊び人

 夏はまだ先であるというのに太陽は休むことを知らず、滴る汗によって嫌悪感を抱いてしまう昼下がり。ラルー酒場はその暑さも相まって、異様な空気に包まれている。

 「ナダイさん、仲間がお呼びです! 新しき旅立ちに幸あれ!」

 カウンターにいる酒場の店員の歓喜の色が隠せない声が響き渡る。本日、初めてのパーティー成立に酒場の在籍リストを凝視していた者も酒のツマミに舌鼓を打っていた者も否応なしに視線を送ってしまう。

 その中でも多いのは先を越されてしまったという嫉妬に似たものだ。かといって、「よし、俺も」と簡単にパーティーを決めれるものでもない。

 小難しい制約も制限もある。

 まず、パーティーに入れた仲間は死亡しようが逃亡しようが500日間はその契約を解消することはできない。なんか思ってたのと違う! となった場合の為に10日のお試し期間があるが、パーティーランクが下がるうえに酒場に払った手数料はもちろんのこと、その手数料の倍近くの違約金まで払うことになる。

 そして、重要なことがもう1つ。この世界で自らの意思や願望でパーティーを組むことができるのは限られている。属に主人公キャラと呼ばれた者である。

 大小関係なく各所の長に認められた者、冒険者ランクAかつレベル99以上の者、職業・勇者である者、前記した者から権利を購入、または奪い取った者のみ。非合法にパーティーを組む者もいるが、ランクや名声を得ることはない。

 金銭的に余裕があったとしても、ランクが下がることは避けたいのは皆が思っていることである。

 のちに説明するが、清く白い冒険譚などは存在していない。ランクやレベル低い者は沙汰されてしまう実力社会が当然とされる世界にあって、パーティー組みは妥協が許されないものとなっている。


 だからこその異様な空気の酒場。

 その冒険者の入口に立ってしまった田舎者ーー100年に1人と伝承される職業・勇者の肩書きと持つ小さな胸を持つ少女は圧倒されていた。

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