職業、遊び人ですが?
第1章 女勇者と遊び人
ラルー酒場の地下には酒場登録している者たちの部屋が立ち並んでいる。小さな部屋だが、最低限のプライベートは守られている。余程のことがない限り、長くはいない為か登録者からの不満は出てこない。
「うわああああああっ!!」
そんな平穏な住居区へ喜怒哀楽の4つが混ざったような叫び声がものすごいスピードで駆け抜けていく。何事かとドアを開けてみる者もいたが、声の主は既にいない。
ちなみに声の主はラルー酒場の店員。
この酒場で働きだしてから仕事はそつなくこなし、有名パーティーが来店した際も動揺することなく業務にあたった。そんな店員が取り乱したように奇声を発しながらたどり着いたのは一番奥にある部屋。
店員からすれば、一番入りたくない部屋でもある。1つ、深呼吸をして、店員は静かにドアをノックする。
ーーコン、コンッ
店員にとってもラルー酒場にとっても緊急事態である。だが、礼儀は弁えているつもりだ。それは詭弁もいいところで、背景にはそういった心支度をしなければ、自らの精神バランスが保てなくなってしまうような光景が広がっている可能性がある。
以前のように。
ノックをし続ける店員は悟りを開いてしまったような顔をしている。伝承でしかない存在だが、ホトケさまといったところであろうか。
(十中八九そうだろうな…)
無言のドアを睨み付けた店員はホトケさまもどきから普通の人間に戻っていた。