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素直になろうよ

第13章 すぐそこにあったもの

病院の暗い廊下で、俺は壁に手をついて立っていた。

救急車が来たのも、病院に運び込まれたのも、目の前で起こっていたことなのに、記憶があまりない。



ただ、意識のない加瀬宮から視線を外さなかった。

手術室にその姿が消えても、彼の目を閉じたもの言わぬ顔が目の前にあるようだった。




スクーターが加瀬宮を直撃し、運悪く街路樹に挟まれる形で全ての衝撃をその身体に受けてしまった。

乗っていた二人の身体も跳ね飛ばさたが、加瀬宮がクッションになり、幸いにも大事に至らなかった。



そして、加瀬宮一人が糸の切れた人形のように、意識を手放した。








怒りなんだか、悲しみなんだか、不安なんだか、恐怖なんだか。
もうよく分からない。

見合いでも何でもしたらいい。
結婚するならスピーチだってしてやる。
お前を困らせたりしない。
いい上司でいる。

なにも求めないから。




だから、頼む。
お願いだ。

どうか死なないで、いてくれよ。



あいつをこの世界から消さないでくれよ。

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