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素直になろうよ

第13章 すぐそこにあったもの

良かった。
死ぬかもしれないなんて、盛大に泣いた自分が恥ずかしい。


そう思いながら、気がついたら涙が溢れていた。


良かった。
両手で顔を覆いながら、声を殺して泣いた。


いなくなるかもしれないという、果てしない恐怖が、安堵に変わりしばらく全身が麻痺したようだった。



そうして、俺の中に残ったのは。



強く、強く自覚してしまった彼への想い。

抗うことも、打ち消すこともできない。




病室のベッドに横たわっている加瀬宮にゆっくりと近づいた。

整った顔の所々に擦り傷がある。
おでこにはガーゼが止められ、痛々しい。

布団から突き出た腕にそっと触れてみた。



暖かい。

規則正しい息遣いもはっきりと聞こえ、ちゃんとここに在るんだと、ようやく実感できた。

点滴に触れないように、彼の手を握った。



加瀬宮。ありがとう。

ここにいてくれることだけを感謝した。

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