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素直になろうよ

第1章 枯れない涙

ともすると、泣きそうになってしまう自分を振り払って、いつもより幾分低い声で叫んだ。


「こんなに熱があるくせに、さっきから何言ってやがる!さっさと帰って、とっとと寝ろ!アホ上司!」


ぽかんとして俺を見つめるその視線も、どこか頼りなげでふらついているようだ。


「ばれたか」

ニヤリと笑うその表情は、いたずらが見つかった時の子供のようで、思わず掴んでいた手を放してしまった。
心臓が音を立てて弾けたようだ。

「誰にもばれなかったと思っていたのによ〜」

そんなもん!朝の挨拶した時点でばれてたわ、あほう。
それから丸一日、どんだけ俺が我慢したと思ってやがる。


「ここまで黙っててやったんだから、もういい加減素直に帰れ。仕事はきっちりやってやる!あんたがいると、かえって足手まといなんだよ」

もう上司と話している感覚なんか微塵もなかった。
や、上司だけども。


「加瀬宮って天邪鬼な?」

喉の奥で笑うようにして、内海は俺の頭をポンポンと撫でるように叩いた。
これは、こいつの癖だ。
誰にでもする。
こないだ、会社の玄関にいた猫にすらやってた。




でも。



それが、心臓痛いくらいに嬉しいとか、感じちゃってる自分が嫌だ。はっきり言って寒い。



「じゃあ、お言葉に甘えることにして、帰るわ。正直しんどかったし。明日早めにくるから、お前も適当にして帰れよ。0時までな。それ以上の残業は認めねえぞ」


内海はヒラヒラと手を振って、フラフラと帰って行った。


誰もいないオフィスに、俺と泣きたくなるくらいの仕事が残された。

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