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素直になろうよ

第7章 交わる気持ち

「大丈夫か?」


頬が触れてしまいそうな体勢を手放すのは惜しかったが、抱えていた腕をそっと外した。


トイレのドアが閉まると、店の中の喧騒が嘘のようにシンとした空間が現れた。



「大丈夫ですよ。嘘ですから」



背中を丸めていた加瀬宮が、その言葉と共にシャンと体を伸ばし、天井を見上げる。



「ん?嘘?」

「課長、さっき困ってたんじゃないかと・・」



幾多の部下からの返答に困る質問攻めに辟易としてたのは事実だが。


「ああ、うん。確かに・・ああいう質問は、返答に困るな」



絶妙なタイミングでの助け舟に、それと分からず乗っていた自分が少し恥ずかしくなる。


「助かった。ありがとう」

「いえ、俺ももう帰ろうと思ってたから、単に課長をダシに使っただけです」



加瀬宮は抑揚のないこえで、ボソボソと言葉を吐き出した。

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