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他人事

第6章 犯人と真実

桐原あずさは約束の時間に到着し、工場の中に入った。工場は薄暗かったが、少し先にある物体が転がっていることに気づいた。あずさはそれに近づき、物体を確かめた。その時、あずさは思わず悲鳴をあげた。それは紛れもなく、誰かの腕だったのである。その瞬間、明かりがつき、ちょうどあずさの遥か頭上に、片腕だけを吊るされている上野正の姿があった。
「正!」
「ごめんあずさ。へましちまった」
そのとき、あずさの前方から大きな高笑いが聞こえてきた。
「誰なの!」
笑い声はどうやら女のものだった。そしてその女は、ビデオAに映っていた仮面を被っていた。
「あなたが正をこんな目にあわせたの?」
「そうよ。今私の手にもってるスイッチを押すと、あの男を吊るしているロープが切れるわ。この高さから落ちたらまず助からないでしょうね。わかったら両手を後ろに回しなさい」
あずさはいう通りにすると、すかさず別の仮面を被った黒服の人間が手錠を持ってきて、あずさの両手をガッチリ塞いだ。
「いう通りにしたわよ!もう私は抵抗できない。だから、あなたもその仮面をとって素顔を見せなさい」
「そうね、もう隠す必要はないわね」
女は仮面を外し、素顔を見せた。
「私の顔に見覚えあるでしょ」
「あなたは、菊川美恵子。どうしてこんなことを」
「それは自分の胸に聞いて見ることね。それと、あなたのお友達とお姉さんやお義兄さんを殺したのも私。ま、お義兄さんにはビデオBを見せただけだけどね」
「絶対に許さない」
あずさは怒りをあらわにしたが、両手の拘束と人質をとられていることで、何も抵抗できなかった。その時、力ない声で上野正があずさに尋ねた。
「この女一体誰なんだ」
「この人は‥‥」
あずさはゆっくりとこの女の過去を語りはじめた。

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