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他人事

第7章 犯人の過去

今から四年前、あずさが弁護士になってからちょうど一年が経ったときのことである。

あずさの先輩に、当時レイプ被害にあった女性を担当した者がいた。被害者の名前は当時29歳であった菊川美恵子。六人グループの若者に、会社帰りに廃工場に連れていかれ、六人全員に中出しされ妊娠。数時間後、側を通りかかった人に助けられ病院に搬送されたという。

あずさはこの案件に取り組んではいなかったが、まだ取り扱っていないレイプ事件に興味を持ち、調書を隅々まで読み込んでいた。調書を読むたび、あずさは犯人に対する憤りを隠せずにいた。

数日後、あずさが仕事に向かう途中、高層マンションの直下に多くの人だかりができているのに気づきいた。あずさが上を見上げると、そこには、調書の写真で確認していた菊川美恵子がいた。

あずさはすぐ様屋上に向かい、美恵子の説得にかかった。
「あなた菊川美恵子さんね。あなたの事件を担当しているものの同僚です。あなたの気持ちはよく分かります。でも、死んだらまた悲しみが繰り返されるだけよ」
「誰が悲しむっていうのよ」
「それは、あなたの家族だったり、友達だったり‥‥」
「家族や友達‥‥」
「そうよ。大体レイプされたからってなんだっていうの?そんなの、また立ち直れば済む話じゃない」
「あなたはレイプされたことあるの?」
「それはないけど、私は女だからなんとなく分かるわ。だから、また立ち直ればいいの。さっこっちへおいで」
美恵子は死にたかった。散々体を弄ばれて、挙句妊娠させられたのだ。その中絶により、美恵子は妊娠しにくい体になってしまった。今すぐにでも飛び降りたかった。しかし、あずさの話を聞いて、美恵子の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。

美恵子の言いようのない怒りのターゲットは、着実にあずさへと変わっていった。

「さぁ、こっちへ」
「分かったわ。なんだかあなたのお陰で救われた気がする。ホントにありがとう」
そういうと同時に、美恵子はあずさに報復することを誓った。

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