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リトル・リトル・バンビーナ

第2章 僕はアナタに欲情してる。


「謝るくらいなら、
見せびらかすように指輪つけてくんじゃねえよ」

言い過ぎた、と我に返ったときはすでに遅くて

美和子ちゃんの瞳には大粒の涙がたまっていた。

けれど、ここで泣くわけにはいかない、と言い聞かせているのか

涙は決して流れない。

――あの時は泣いたくせに。

ただ、胸の辺りで左手を包むようにして右手をぎゅっとつかんでいた。

まるで、薬指に光る婚約指輪に助けを求めるように。

お守りみたいに、すがってるように見えた。

むかつく。そんなちっぽけな指輪なんかに。

ヒリヒリとした痺れのような、痛みが喉を流れる。

その痛みは胸まで来て、留まり続けた。


好きだから、ずっとこらえてきたのに。

大切にしようって

泣かせたくないって決めたのに。

結局、こうやって追い詰めてしまう。



わかってた。

大切にしたいっていうのは自分から動くことが怖かった臆病者の言い訳。

彼女が誰かのモノになってしまう前に、
気持ちを伝えていれば。

結果は変わらなかったとしても、

たとえ

悲しくて苦しくてボロボロになったとしても。
こんな苛立ちはなかったはずだ。


もういいや。

俺の中で何かが崩れた。


彼女の心がすでにほかの男に奪われてしまったのなら。

俺の心の中だけに、彼女がいるなんて不公平だ。

だから。

壊してくれ。

俺のこと嫌いになって、憎悪に満ちた目で、声で。


俺の心を壊してくれ。


誰もいない、静かな保健室。

午後の授業の始まりを告げるベルが鳴り響く中。


俺は、美和子ちゃんをベッドに無理矢理押し倒した。

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