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身代わり妹

第10章 新心

ゆっくりする暇なんかなく、凌太のポケットでPHSが鳴る。

ため息混じりに、ちょっと病院に戻る…そう言って凌太が病室を出てからすぐだった。


─────母親が…やって来た。



「病室の表札、秋村美優になってるじゃない。よかったわね」


「え……うん…ありがとう」

笑顔の母親に警戒してしまう。


「個室なんて贅沢ね」

ボソッと呟いた母。


(……散々個室にいたくせに!)

「全室個室なの」

言い返したい気持ちを抑え込んで答える。


「動けないのに個室に1人じゃ不便でしょ? 私が付き添ってあげる」

(うわ……)

それが目的か!

なんだか脱力してしまう。


姉が亡くなり、母の目的や居場所がなくなってしまったのだろう。

理解出来ない訳じゃない。

でも、母ももう現実を受け止めなきゃいけないんだ。



「付き添いなんていらないから!」

「秋村の婦長の友達の病院なんでしょ? あんたから頼んで頂戴」

「無理だよ。迷惑掛けられない!」


母と私はもう別々の家族だ。

母はこれから自分で自分の生活を作り守っていかなければいけない。


「私はもうこの子の為に頑張りたいの。どうしても助けが必要なら助ける。でも、まずはお母さん自身でその生活を築いていって」


─────お願い、届いて。


無表情で私を見ている母を見つめる。

まだ50前の母。

働こうという気持ちがあれば働ける。

恋をしたっていい。

お姉ちゃんの看病に囚われてしまった29年間を取り戻して欲しい……‼︎


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