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僕らのために

第2章 夏空

太陽が午前とは思えないほど大きくなっていた。夏の微風が海の薫りをのせて頬を撫でる。
「あ~、海って感じだね」
浅井先輩が背伸びをして深く息を吸い込んだ。
「絶好の海水浴日和になりそう」
高橋さんが目を細めて言った。持ってきていた麦わら帽子を頭にのせる。
武田が僕に向かって目くばせをした。「ここまでは上々だな」といったところだろうか。
少し歩くと、海が見えてきた。日射しを受けてきらめいた水面が波に揺られて一瞬一瞬表情を変えていく。僕らの胸の孤独が一つ高くなった。
まだ朝のせいか、砂浜には誰もいない。
「貸し切りっすね。今日は平日だし、昼になってもそこまで人で溢れないと思いますよ。大きな海水浴場じゃないから」
武田はそう言って海の家へ案内した。下見をしてきたという入念さがいきている。お調子者で面倒くさがりな武田がそこまでするのはなんだか気味が悪かったが、僕としては助かる。
僕らはまず海の家に荷物を預けることにした。下見に行くなら海の家は清潔感のあるところを探してこいと言ったので、武田がなかなかのところを選んできた。

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