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僕らのために

第2章 夏空

あの夏は暑かったのを覚えているが、それ以上に僕が覚えているのは空だ。
水で一切薄めない絵の具の青を画用紙いっぱいに塗りつけ、その上にこれまたたっぷりの白を使った雲が浮かんでいる、そんな空が続く夏だった。
僕は夏休み前に憧れの先輩を海に誘った。少し話したことがあってお互いの名前は知っていたが、特別親しいわけでもないのに、いきなり海、だ。一応お互いの友人も一緒にとは言ったものの、今思うとずいぶん無茶をしたものだ。
告白なんてそれまでしたことのなかった僕が、若さ故の無鉄砲さと小心者なりの勇気を武器に偉大な試みに走った結果と考えてもらいたい。
結果は意外なほどあっさりとOK。満面の笑顔で、「優先的に予定あけるから、日にちが決まったら教えてね」と言われた僕は、その日の学校からの帰り道に歓喜の雄叫びをあげたっけ。
僕が断られるのを楽しみにしていた武田という友人にそのことを話すと、心底意外そうな顔をして少し不機嫌になった。
「ま、浅井先輩も変わったところがあるからな。あの人なら他にも誘いがありそうなもんだが」なんて言っていたが、友人も誘うと言ったからお前も来いと言うと、とたんに上機嫌になった。

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