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undecided

第2章 ポルカ

 やっぱり優斗は答えに困ってしまい、何も言えませんでした。自分でも、どうしてきたのかが、はっきりとはわかっていなかったのですから。

「多分、どっちもです。ピアノも聞きたいし、話もしたかったんです」

 悩みに悩んだ末に、優斗はそう言いました。

「そう、ですか……」

 女の子も言葉を失ってしまいました。変わらず優斗も黙っていたので、真っ暗な教室は恐ろしいほどに静かでした。今宵は鈴虫の鳴く声も、聞こえませんでした。

「私の」

 女の子が静寂を打ち破りました。

「私の拙いピアノを聞かれるのは、なんだか恥ずかしいです」

 女の子はそう言いましたが、声の調子からすると満更でもないように受け取れました。

「迷惑ですか」

 優斗は聞かずにはいられませんでした。

「迷惑じゃありません。でも、黙っていたのはちょっと卑怯です。まさか誰かが聞いているなんて、夢にも思っていませんでした」

「ごめんなさい」

「今度からは気をつけてください」

 女の子は言いました。

「はい、気をつけます」

 優斗は言いました。そこでまたも会話が途切れて、またも優斗と女の子の間に沈黙が流れました。

「優斗さん、あなたは私と話がしたいとも言ってくれましたね」

 唐突に女の子が言いました。

「はい」

「それなら、昨日の続きをお話しします」

「はい」

「確か、ポルカが馬車にひかれて亡くなったことまでお話ししましたね」

「はい」

「ポルカは『レグルージュのもとに』を世間に向けて発表したわけではありません。彼女が生み出した譜面を見つけた兄が、世間に公表したのです。ですが、彼女の曲はそれほど評価されませんでした。教科書にものっていないそうですし、彼女の名前すら知らない人がほとんどでしょう」

 優斗は女の子の話を真剣に聞きながら、確かにどの本にものっていなかったなぁと思いました。

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