
紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第3章 炎と情熱の章③
ヒールのある華奢な白いサンダルは脱ぎ捨て、裸足で海に入ると、寄せてくる波に脚が洗われる。海水はほんの少し温かいのに、ひんやりとした感触が心地良く、火照った熱を快く冷ましてくれた。両脚を波に洗われるまま、きれいになった桜貝をレースの刺繍入りハンカチの上に丁寧に並べてゆく。
その時、前方で閃光が光り、美月は思わず弾かれたように顔を上げた。
見ると、すぐ手前に立った晃司が大きな一眼レフカメラを構えてシャッターを切っている。プロ仕様のいかにも高価そうなカメラだ。
美月は反射的に手のひらを額にかざした。
「止めて!」
思わず叫んでしまった。
「良いじゃないか、写真を撮るくらい」
晃司が頓着することなく、続けてシャッターを切る。美月は急いで晃司の構えたカメラの射程距離から離れた。
「参ったな」
晃司が流石に憮然とした表情で言った。
今日の美月は、オフ・ホワイトのコットンのワンピースに身を包んでいる。ワンピースはノースリ―ブなので、上にはやはり同色のサマーニットのカーディガンを羽織ってきた。腰まで伸びたロング・ヘアは今日はシニヨンにはせず、解き流したままで、海風に吹かれて揺れている。メガネをかけていても、いつもの雰囲気とは違う。
「美月があんまり可愛かったから、ついシャッターを切りたくなったんだ」
晃司がいつになく、少し怒ったような、照れたような顔でひと口に言う。だが、美月には、その言葉も女を口説き慣れている男の常套句にしか聞こえなかった。
気まずい沈黙が二人の間に落ちる。
晃司が先に立って歩き始めたので、美月も仕方なく後に続いた。
車を停めた場所まで戻ると、晃司は道路を挟んで向かい側に建つ小さなカフェに入った。躊躇う美月の背を晃司が軽く後ろから押すようにしてガラスのドアーを開けると、チリリンと扉についた鈴が可愛らしい音を立てた。
「いらっしゃいませ」
頭に白いものが混じった中年の温厚そうなマスターが注文を取りにくる。
晃司はパスタとコーヒー、美月はサンドイッチとオレンジジュースを頼んだ。
その時、前方で閃光が光り、美月は思わず弾かれたように顔を上げた。
見ると、すぐ手前に立った晃司が大きな一眼レフカメラを構えてシャッターを切っている。プロ仕様のいかにも高価そうなカメラだ。
美月は反射的に手のひらを額にかざした。
「止めて!」
思わず叫んでしまった。
「良いじゃないか、写真を撮るくらい」
晃司が頓着することなく、続けてシャッターを切る。美月は急いで晃司の構えたカメラの射程距離から離れた。
「参ったな」
晃司が流石に憮然とした表情で言った。
今日の美月は、オフ・ホワイトのコットンのワンピースに身を包んでいる。ワンピースはノースリ―ブなので、上にはやはり同色のサマーニットのカーディガンを羽織ってきた。腰まで伸びたロング・ヘアは今日はシニヨンにはせず、解き流したままで、海風に吹かれて揺れている。メガネをかけていても、いつもの雰囲気とは違う。
「美月があんまり可愛かったから、ついシャッターを切りたくなったんだ」
晃司がいつになく、少し怒ったような、照れたような顔でひと口に言う。だが、美月には、その言葉も女を口説き慣れている男の常套句にしか聞こえなかった。
気まずい沈黙が二人の間に落ちる。
晃司が先に立って歩き始めたので、美月も仕方なく後に続いた。
車を停めた場所まで戻ると、晃司は道路を挟んで向かい側に建つ小さなカフェに入った。躊躇う美月の背を晃司が軽く後ろから押すようにしてガラスのドアーを開けると、チリリンと扉についた鈴が可愛らしい音を立てた。
「いらっしゃいませ」
頭に白いものが混じった中年の温厚そうなマスターが注文を取りにくる。
晃司はパスタとコーヒー、美月はサンドイッチとオレンジジュースを頼んだ。
