
紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第3章 炎と情熱の章③
マスターが予め檸檬水と一緒に運んできた冷たいお絞りで手を拭いながら、晃司が唐突に沈黙を破った。
「さっきは、ごめん。あんな風についカッとなってしまったけど、本当に美月が凄くきれいだったから、せめて写真にでも撮っておかないと勿体ないと思ってさ」
晃司は少し言い淀み、それから少し間を置いて続けた。
「できれば、あの写真をコンクールに出そうかと思ってるんだけど。タイトルはそうだな、〝海辺の妖精〟とか〝波と戯れる妖精〟」
愉しげに話す男の口調に、美月は言いようのない不快感を憶えた。
「それは―、止めて下さい」
「どうして? あんなに可愛くてキレイだったのに。きっと上手く撮れてると思うけどね」
意外そうに言う晃司に向かって、頭を下げた。
「ごめんなさい。私、そういうのって、あまり好きじゃないから」
「勿体ないよ」
晃司は何故か〝勿体ない〟を繰り返した。
「美月は自分のことをどう思ってるか知らないけど、君が考えてる以上に君は可愛いし、魅力的だよ? 折角、そんなに魅力的なんだから、大勢の人に見て貰えば良いじゃないか。俺だって、こんな可愛い子が俺の女なんだって自慢したいしね」
そこで晃司は悪戯っぽい表情になった。
「本当を言うと、このカメラはあの水着を着た美月を撮すつもりだった。きっと良い写真が撮れると思って、愉しみにしてたんだぜ」
最早、美月は返す言葉もなく、ただ唇を噛みしめているだけだった。
―こんな可愛い子が俺の女なんだって―。
晃司のつい今し方の言葉が耳でこだまする。
この男は、どうしてぬけぬけとそんなおぞましい科白を口にするのだろう。あのペラペラと喋る口を今すぐ黙らせてやりたい!
怒りと屈辱に震えながらも、美月は消え入るような声で抗議した。
「私は、あなたの女なんかじゃありません。それに、話が違います。私たちはお互いに必要以上に干渉し合わない―、それが最初の約束だったはずです」
抗議に対して、晃司からは何の反応もなかった。ほどなく注文したメニューが運ばれてきて、二人はしばらくの間、黙り込んで眼の前のランチを摂ることに集中した。
「さっきは、ごめん。あんな風についカッとなってしまったけど、本当に美月が凄くきれいだったから、せめて写真にでも撮っておかないと勿体ないと思ってさ」
晃司は少し言い淀み、それから少し間を置いて続けた。
「できれば、あの写真をコンクールに出そうかと思ってるんだけど。タイトルはそうだな、〝海辺の妖精〟とか〝波と戯れる妖精〟」
愉しげに話す男の口調に、美月は言いようのない不快感を憶えた。
「それは―、止めて下さい」
「どうして? あんなに可愛くてキレイだったのに。きっと上手く撮れてると思うけどね」
意外そうに言う晃司に向かって、頭を下げた。
「ごめんなさい。私、そういうのって、あまり好きじゃないから」
「勿体ないよ」
晃司は何故か〝勿体ない〟を繰り返した。
「美月は自分のことをどう思ってるか知らないけど、君が考えてる以上に君は可愛いし、魅力的だよ? 折角、そんなに魅力的なんだから、大勢の人に見て貰えば良いじゃないか。俺だって、こんな可愛い子が俺の女なんだって自慢したいしね」
そこで晃司は悪戯っぽい表情になった。
「本当を言うと、このカメラはあの水着を着た美月を撮すつもりだった。きっと良い写真が撮れると思って、愉しみにしてたんだぜ」
最早、美月は返す言葉もなく、ただ唇を噛みしめているだけだった。
―こんな可愛い子が俺の女なんだって―。
晃司のつい今し方の言葉が耳でこだまする。
この男は、どうしてぬけぬけとそんなおぞましい科白を口にするのだろう。あのペラペラと喋る口を今すぐ黙らせてやりたい!
怒りと屈辱に震えながらも、美月は消え入るような声で抗議した。
「私は、あなたの女なんかじゃありません。それに、話が違います。私たちはお互いに必要以上に干渉し合わない―、それが最初の約束だったはずです」
抗議に対して、晃司からは何の反応もなかった。ほどなく注文したメニューが運ばれてきて、二人はしばらくの間、黙り込んで眼の前のランチを摂ることに集中した。
