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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第3章 炎と情熱の章③

 美月が涙ぐんで言うと、晃司は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「ふうん? そっちが勝手についてきたんじゃないのか。俺は何もお前を無理矢理、引っ張ってきた憶えはないぞ」
 何という言い草!! この瞬間、美月は本当にこの男を大嫌いになった。いや、嫌いどころか、憎しみすら憶える。
「私は帰りますから!」
 そう言って背を向けた美月に、からかうような声が追いかけてくる。
「ここがどこか教えてやろうか」
 そのひと言に、美月の全身に緊張が漲る。
「ここはH市の終日山の山頂だ。生憎と宿は、これから我々が行くところ一軒しかない」
 美月は晃司には構わず、そのまま歩き続けようとする。
「ホウ、この山頂から麓の町までは歩けばゆうに三、四時間はかかるぞ? バスは一日に一度しか通らないしな。むろん、その時間はとっくに終わっているが」
 それでもなお行こうとする美月に、晃司の容赦ない言葉がとどめを刺した。
「この山中では、いまだに山犬が徘徊しているとか聞くな、それに途中には夜な夜な徒党を組んで暴走する質の良くない暴走族もいるそうだぞ。さて、どうする? 不良どもにさらわれて山の中で慰み者にされるのが良いか、それとも山犬の餌食になりたいか?」
「―」

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