
紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第3章 炎と情熱の章③
ちょっと見には自然の岩を積み上げて造った岩風呂のような造りだ。清潔な湯が満々と湛えられていて、ゆっくりと身を沈めてみる。
誰もいない広い露店風呂は随分と大きく思えるが、手脚を伸ばして湯に浸かっていると、こんなときなのにうとうとと快い眠気を誘ってくるようだ。
その時。入り口の戸がカラカラと音を立てて開いた。
美月はハッとして、面を上げる。狼狽して音の聞こえた方を見やると、白い湯げむりの向こうに佇む人影がある。
「あ―」
美月は、あまりのなりゆきに色を失った。あろうことか、闖入者は晃司だったのである。
晃司は大股に洗い場を横切ってきたかと思うと、腕を組んで仁王立ちになった。逞しい男の身体から、美月は慌てて眼を背ける。見たくもないものを無理に見せられているような気がした。
晃司は酷薄そうに口許を歪めた。ニヤリと笑うと、ザブンと湯舟の中に身を躍らせてくる。彼が入った拍子に、弾みで湯水がザッと外に溢れ出し、飛沫が四方に散る。
晃司は美月から少し離れた場所に陣取った。
「どうかな? ここの風呂はなかなか風情があって、良いだろう?」
晃司の何でもない常と変わらぬ態度がかえって怖ろしい。何も言えないでいると、ややあって晃司が口を開いた。
「そろそろ上がったら、どうだ?」
「え―」
美月が眼を見開く。
「俺は今入ったばかりだ、もう少しのんびりしてから行く。美月は先に部屋に戻っていると良い」
「でも」
美月の身体に戦慄が走る。
「私―」
この男の前で堂々と裸体を晒し、ここから出てゆけと言うのか。
美月は夢中で首を振る。
「できません、そんなこと、できない―」
涙が眼の奥から湧き上がった。そのせいで、湯げむりでぼんやりとした視界が余計に霞んだ。しかし、幾ら経っても、男は動こうとはしない。あまりに長い時間に渡って湯に浸かったため、美月はのぼせて、頭が朦朧としてきた。
誰もいない広い露店風呂は随分と大きく思えるが、手脚を伸ばして湯に浸かっていると、こんなときなのにうとうとと快い眠気を誘ってくるようだ。
その時。入り口の戸がカラカラと音を立てて開いた。
美月はハッとして、面を上げる。狼狽して音の聞こえた方を見やると、白い湯げむりの向こうに佇む人影がある。
「あ―」
美月は、あまりのなりゆきに色を失った。あろうことか、闖入者は晃司だったのである。
晃司は大股に洗い場を横切ってきたかと思うと、腕を組んで仁王立ちになった。逞しい男の身体から、美月は慌てて眼を背ける。見たくもないものを無理に見せられているような気がした。
晃司は酷薄そうに口許を歪めた。ニヤリと笑うと、ザブンと湯舟の中に身を躍らせてくる。彼が入った拍子に、弾みで湯水がザッと外に溢れ出し、飛沫が四方に散る。
晃司は美月から少し離れた場所に陣取った。
「どうかな? ここの風呂はなかなか風情があって、良いだろう?」
晃司の何でもない常と変わらぬ態度がかえって怖ろしい。何も言えないでいると、ややあって晃司が口を開いた。
「そろそろ上がったら、どうだ?」
「え―」
美月が眼を見開く。
「俺は今入ったばかりだ、もう少しのんびりしてから行く。美月は先に部屋に戻っていると良い」
「でも」
美月の身体に戦慄が走る。
「私―」
この男の前で堂々と裸体を晒し、ここから出てゆけと言うのか。
美月は夢中で首を振る。
「できません、そんなこと、できない―」
涙が眼の奥から湧き上がった。そのせいで、湯げむりでぼんやりとした視界が余計に霞んだ。しかし、幾ら経っても、男は動こうとはしない。あまりに長い時間に渡って湯に浸かったため、美月はのぼせて、頭が朦朧としてきた。
