
紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~
第3章 炎と情熱の章③
向かいに座った晃司は、まるで眠ってでもいるかのように気持ち良さげに眼を瞑っている。
美月は唇を噛みしめ、そろそろと湯舟から這い出た。湯舟の中にタオルを持ち込むのは気が引けたため、タオルは洗い場に置いていたはずなのに、タオルがどこにも見当たらない。
美月は蒼白になり、身体を隠すすべもないままに、うつむいて洗い場を横切った。振り向かなくても、晃司が眼を開けて、美月の白い裸身を眺めているのは判る。無防備な身体に執拗な男の視線をひしひしと感じた。敗北感と惨めさに打ちひしがれて、やっと脱衣所まで戻ってきた彼女を待ち受けていたのは、更に残酷な仕打ちだった。
美月は狼狽え、蒼褪めて、狂ったようにワンピースやカーディガン、下着が置いてあったはずの籠を探したけれど、籠の中には何もない。見間違いかともう一度見回してみても、哀しいほどに何もなかった。
またしても、あの男にやられたことは疑いようもない。美月は、とうとう哀しみを堪え切れず、低く嗚咽を洩らした。上着どころか、気に入っていた淡いミントグリーンのブラやショーツまで見事に消えている。
と、突如として、背後の引き戸が開いた。
「あっ」
美月は小さな悲鳴を上げた。急いでしゃがみ込み、できるだけ身体を折り曲げて男の不躾な視線から我が身を隠すように試みる。
晃司は悠然と自分だけ服を身につけると、美月を見て薄笑いを浮かべた。
「どうした? まだ服を着ていなかったのか」
自分がすべてをどこかに持ち去ったか隠したくせに、よくもいけしゃあしゃあと言えるものだ。だが、そのことを問いただしても、晃司が〝知らない〟とひと言応えれば、どうしようもない。
美月は涙眼になって、咎めるような視線で男を睨む。
しかし、そんな眼をして男を睨んでも、余計に相手を煽り、征服欲、所有欲を刺激するだけだとは判らない。
「こんな卑怯なことをして、酷いわ」
涙ながらに訴えても、晃司は肩を小さく竦めただけだった。
「服が見つからないのなら、俺が抱いていってやろう。どうやら、俺の可愛い仔猫ちゃんは、可憐な外見に似合わず、淫蕩な女神さまらしい」
美月は唇を噛みしめ、そろそろと湯舟から這い出た。湯舟の中にタオルを持ち込むのは気が引けたため、タオルは洗い場に置いていたはずなのに、タオルがどこにも見当たらない。
美月は蒼白になり、身体を隠すすべもないままに、うつむいて洗い場を横切った。振り向かなくても、晃司が眼を開けて、美月の白い裸身を眺めているのは判る。無防備な身体に執拗な男の視線をひしひしと感じた。敗北感と惨めさに打ちひしがれて、やっと脱衣所まで戻ってきた彼女を待ち受けていたのは、更に残酷な仕打ちだった。
美月は狼狽え、蒼褪めて、狂ったようにワンピースやカーディガン、下着が置いてあったはずの籠を探したけれど、籠の中には何もない。見間違いかともう一度見回してみても、哀しいほどに何もなかった。
またしても、あの男にやられたことは疑いようもない。美月は、とうとう哀しみを堪え切れず、低く嗚咽を洩らした。上着どころか、気に入っていた淡いミントグリーンのブラやショーツまで見事に消えている。
と、突如として、背後の引き戸が開いた。
「あっ」
美月は小さな悲鳴を上げた。急いでしゃがみ込み、できるだけ身体を折り曲げて男の不躾な視線から我が身を隠すように試みる。
晃司は悠然と自分だけ服を身につけると、美月を見て薄笑いを浮かべた。
「どうした? まだ服を着ていなかったのか」
自分がすべてをどこかに持ち去ったか隠したくせに、よくもいけしゃあしゃあと言えるものだ。だが、そのことを問いただしても、晃司が〝知らない〟とひと言応えれば、どうしようもない。
美月は涙眼になって、咎めるような視線で男を睨む。
しかし、そんな眼をして男を睨んでも、余計に相手を煽り、征服欲、所有欲を刺激するだけだとは判らない。
「こんな卑怯なことをして、酷いわ」
涙ながらに訴えても、晃司は肩を小さく竦めただけだった。
「服が見つからないのなら、俺が抱いていってやろう。どうやら、俺の可愛い仔猫ちゃんは、可憐な外見に似合わず、淫蕩な女神さまらしい」
