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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第3章 炎と情熱の章③

 頭上から声が降ってくるのと同時に、膝裏を掬われ、軽々と横抱きに抱え上げられる。
 あまりの屈辱と羞恥に、美月は身も世もない心地だった。
「うっく、えっ、えっ」
 美月の泣き声が響く。
 一糸纏わぬあられのない姿のまま、大嫌いな男に抱かれ、美月はそのまま庭を通って別館の方へと連れ帰られた。途中で他の宿泊客に逢わなかっただけまだしも救いだと思っていた矢先、別館の建物に戻って紅い絨毯の敷きつめられた廊下を進んでいたそのときだった。
 向こう側から、和服姿の艶やかな女性が静々と歩いてくる。
 美月はハッと身を強ばらせた。望みもしないことなのに、他人に裸を見られたくない一心で男の首に両腕を回し、自然と男に力一杯しがみつくことになってしまう。
 どうしても晃司に身体を押しつけることになってしまうので、美月の大きな胸が晃司の逞しい胸板で押し潰されるような形になった。それさえ自覚できないほど、美月は動転していたのだ。
 美月から抱きついてきたことに気を良くしたのか、晃司の頬がわずかに緩む。晃司とすれ違う寸前、その女性が立ち止まった。
 年の頃は四十前後、仲居のお仕着せではなく、紫の訪問着を身に纏っていることから、この旅館の女将その人であることが判る。

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