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紫陽花(オルテンシア)~檻の中の花嫁~

第3章 炎と情熱の章③

 その方が美月にはもっと怖かった。改めて自分が直面しようとしている危険をひしひしと身に感じる。 
 ようよう顔を上げた美月は悲痛な声を上げた。
「あ―」
 洋室になっているのは、どうやら先刻の部屋だけで、正しくは和洋折衷になっているらしい。ゆうに十畳はある広々とした畳敷きの和室の中央に、大きな布団が二人分、並んで敷いてあった。
 それも、まるで鮮血を思わせるような真紅の布団である。よくテレビの時代劇で見かける出合茶屋―連れ込み宿に迷い込んだかのようだ。まるで昔の遊廓を見るような風景は、どこか限りなく淫靡な雰囲気を醸し出していた。
 夜具の枕許には、これもまた、行灯を模した和風のスタンドが置かれている。
 傍らには朱塗りの衣桁があって、何故か夜具と同色の血で染め上げたかのような緋縮緬の長襦袢が大きく袖をひろげた格好でかけられている。
 晃司は美月をその緋色の褥にぞんざいに放った。布団は信じられないほど膚触りが良く、ふかふかとしている。そのお陰で乱暴に扱われた割には、衝撃による痛みは感じない。
 美月の白い華奢な肢体が紅い褥に映え、余計に引き立っている。
「まさに眩しいばかりの白さだな。何と勿体ないことだ。これまで、これだけの良い身体を持ちながら、隠してきたとは。宝の持ちぐされじゃないか」
 晃司の嫌らしげな視線が美月の全身を辿った。美月は泣きながら、両腕を前で交差させ、その身を少しでも隠そうとする。
「おっと、そうはいかん」
 晃司はやおら枕許にあった紅い腰紐を取り上げた。美月に近づくと、その両腕を掴む。
「は、放してッ」
 美月は烈しく抗うが、非力な女の力で逞しい男に適うはずはなかった。あっさりと両腕を掴まれると、持ち上げた形のまま腰紐でまとめて縛められる。
「白いな、それに形も良いし、何とも豊かだ」
 晃司は恍惚りしたように美月の胸に見入った。男の顔が近づいてくる。何ものかに憑かれたような眼が炯々と輝いている。
 ふいに唇を奪われ、美月はこれまで以上に愕き抵抗した。呼吸さえ奪うような烈しい口づけは延々と続く。少し離れたかと思うと、角度を変えてまた、唇を塞がれ、美月は息もできない苦悶に喘いだ。

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