それでもきっと
第1章 油揚げ
その油揚げを受け取り、俺もポケットに忍ばせておいたヘソクリの一部を兎の胸に押し付けた。
ペコリと頭を下げる兎に
「本当に喋れないのな、兎って」
と言ってしまっていた。
兎は顔を少し歪めながらも一度だけ頷いた。
その途端、あの発情狐の言った言葉が脳裏を過ぎった。
「どんなことがあっても、出ないの?」
微動だにしない兎の白い頬を空いている手で優しく撫でると嫌そうに避けた。
「答えないの?」
答えられないと分かっていながらの質問に苛ついたのか口を少し開けて何かを言おうとした。
それも聞かずに、ただ興味本位で兎の開いた口に自分の口を重ねた。
女にするように、舌もねじ込んで。
荒い息は漏れるものの、やはり声らしい声は聞こえなかった。
ただ、その漏れる息を聞くと背徳感が全身を巡り妙にゾクゾクとした。