イキシア
第2章 第一章
激しい怒号とともに、傍にあった花瓶をなぎはらうギボウシ。
周囲の臣下たちも動揺と不安を隠せないでいる。
卒倒しかける王妃を支えるのは、次女のサルビア。
気の弱い三女フクシアはただおろおろとするばかりだった。
そんな時、王宮内に彼女が現れる。
「落ち着いてよ、父上様。
騎士たちに罪はないじゃない」
国王の怒りに震える騎士の肩に手を置いたのは、カトレアだった。
もう行っていいわよ、という彼女の一言に若い騎士は一礼を残し、慌てて去っていく。
「カトレア……帰っていたか。
どこに行っていたんだ、お前まで。」
「あたしのことはこの際どうだっていいわ。
それより今は兄上様のことで頭がいっぱいなんじゃないの、父上様?
そんなに過敏にならなくてもいいのに」
「バカを言え!
あの阿呆がどうなろうがもう我は知らん!
……だがな、奴のせいで人魚の存在が人間に知られでもしたら……この国などひとたまりもない。
我ら人魚族は野蛮な人間共に狩られ、虐げられ、好奇と奇異の目に晒され……ええい、考えたくもないわっ!」
再び激昂し、手当たり次第のものをなぎはらう国王に、王妃も姫たちもただ戸惑うばかり。
唯一イキシアの行方を見届けたカトレアだけは、驚くほど冷静に、そして静かにため息をついた。