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イキシア

第2章 第一章




カトレアの姿はもう見えない。
住民や騎士たちの姿も。
背後に臨む閑静な街並みを一通り眺めてから、俺は意気揚々と門をくぐる。
やっと初めて国から出られるんだと思うと、また一際胸が高鳴った。
光海は一体どんなところなのだろう。
陸は、空は、太陽は。
考えるだけで高揚する。

(行くぞ……!)

ひとたび国を出れば、そこはもう一片の光も差さない暗紫色の風景が広がっていた。

暗海に生息できるのはごくわずかな生物のみ。
人魚は空気や食事をとらなくても生きていけるため、特に生物の有無に問題はない。
光海や陸地には、姿形も色も特徴もさまざまな生物がそれこそ何万といるらしい。

人間はヤサイと呼ばれる植物や、生物の肉を食べて命を繋ぐものだと書物で知った。
他の生物をすべて食べ尽くしてしまったらどうするのだろう?
そんな疑問さえ、今の俺には小さなことに思える。
これからすべて分かるのだ。
この目で見て、聞いて、感じて。
とてもわくわくせずにはいられない――。

「――国王様!」

一方、グラジオラス王国中心街にある紫貴宮(しきぐう)では、国王ギボウシと王妃、その娘たちが顔を揃えていた。
息も荒いまま、王宮内に飛び込んできた騎士の表情に、ギボウシは良からぬ報を察する。

「どうした。
あの阿呆が見つかったか。
それとも何か――」

「も、申し訳ございません……。
たった今王子が……イキシア様が海門を出たとの報告が!
東波の《青龍》から!」

「なっ……どういうことだ!
なぜそんな事態になった!
お前たちは一体何をしていたのだっ!」

「本当に、申し訳もございません……っ!」


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