イキシア
第2章 第一章
「……よし。
誰もいないみたいだな」
人気がないことを確認して、一気に門へ向かう。
こんなチャンスは滅多にない。
今日はかなりツイている日だと思う。
門まであと少し。
顔がわずかに綻んだ時だった。
「どこに行くのかしら、兄上様?」
「……っげ」
ふわふわとウェーブのかかった長いプラチナブロンドは、紛れもない人魚の王族の証。
門に寄りかかり、にこりと微笑む女の姿に俺は脱力した。
どうやら今日はかなりツイていない日のようだ。
「カトレア!
お前、何でこんなところに!」
「あら、兄上様こそ。
どうしてこんなところにいるの?
あたしは散歩がてら、光海に出ようなんていうバカがいないか見回りに来たんだけれど。」
「……!」
知っているのよ、と彼女は続ける。
「兄上様のことなんて何でもお見通し。
言葉も行動も、そのちっぽけな頭の中の考えも全部ね。
なんなら今考えていること、当ててあげましょうか。
"一番会いたくない奴に会ってしまった"……当たっているでしょ?」
――図星だった。
彼女、カトレアは俺の実の妹。
一歳年下の十七歳。
俗にいう人魚姫というやつで、父上様に溺愛されている三姉妹のうちの一人だった。
勝ち気で自信家な長女だが、その自信に見合うだけの才能がある。
カトレアには、誰もを魅了する華やかな美貌と妙な勘の良さがあった。
だからこそ正直、一番目をつけられたくない相手でもある。