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ナイトウォーキン

第1章 後悔のスタンプ

満月の下、公園に二人はいた。

Pはブランコに、Aは向かいのベンチにほんの少し警戒した面持ちで座っている。

『どうしたの? 浮かない顔して。』

「いや、ちょっと眠いだけだよ。」

『僕が怖いかい?』

「…ん、いや、うん、ちょっとだけ。」

『ホントに安心していいよ。食事は毎月満月の夜1回だけってバンパイア協会の協定で決まっているんだから。』

「へぇ、そうなんだ。」

警戒心が和らぎ安心した表情でPを見つめるA。

『君、名前はなんだっけ?』

「Aだよ。」

『A君、バンパイアに会ったの初めてかい?』

「そりゃあそうだよ。ホントびっくらこいたよ。」

『こんな真夜中に人気の無い街路を独りでほっつき歩いて何かあったのかい?』

「いやあ、その…こっぱづかしいなぁ、本当の事言わなきゃダメ?」

『うん、ダメ。言わなきゃトマトジュース買いに行かせるよ。』

「そうかい… じゃあ俺の事蔑んだ目で見ないと約束してくれるなら言うよ。」

『僕の死んだ魚のようなこの目で蔑んだ視線なんてテクニカルな事出来ないから安心して話していいよ。』

「ぷっ(笑)… じゃあ、言うよ。」

先の尖った両耳を澄まして聞き入るP。

「実はP君がディナーしてる頃に俺はちょうど風俗行っててさ、60分指名料込み15000円コースを堪能していた訳なのだよ。恥ずかしいよね、この歳で風俗なんて… 世間のタメの奴らは彼女がいて毎晩時間無制限でSEXしてるっていうのに。僕なんか安月給の中からなけなしの15000円をやっとこ捻出して月一回の性的現実逃避。もういい加減惨めに思えてきてさ。彼女を作ろうにも俺、ブ、ブ、ブサイクだし…。男は顔でも金でもなく優しさとか世間では言ってるけど優しさを披露できる場所とか皆無だし、友達いねーし… かぁ~さみしぃ~みじめぇ~セックスしてぇ~って思考にたどり着いたが最後、愛のない掛け値なし混じり気なし肉欲のみの殺伐としたセックスに身を投じる自分にね、もういい加減にね、いやになってしまってね、事が終わった後に無限の絶望を体内から放出しながら夜道をほっつき歩いていた訳であります…。」

『へぇ、そりゃあ孤独と絶望の極致だね。』

真剣に話を聞いているPの羽織っているロングブラックコートが夜風に棚引いている…
まるで彼がH.I.M.ロックであるかのような錯覚を覚えたAであった…。

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