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未成熟の成長

第1章 ナタリー


八雲はすぐに家に帰る。
クラブにも入らずに真っ直ぐに家に帰るのだ。
私は家が好きだから。
家族が好きだから帰るのだ。

学校が終わり、掃除が終わり、今日も一目散に家に帰る。
雨の日も晴れの日も、そうしてきたのだから。

八雲の家は山の中、そっとのぞいてみてごらん。
そっとのぞいてみてごらん。
みんなで何をしているのだろう。

石ころを蹴りながら、私はそんな唄を口ずさむのだ。
そしてそれを阻むものが、目の前に現れるなんて、思いもしなかった。
私は帰りたかっただけなのだ。
あの綺麗な家に、暖かい家に、帰りたかった。

でもそれは叶わない。
目の前の男は深いニット帽をかぶって、マスクをして、コートをはおっているし。
それに辺りには人気もなく、ここは山の中だったからである。
国語のテストだったら60点はとれそうな状況説明なのだ。

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