未成熟の成長
第1章 ナタリー
「ちょっとお散歩しないかい、八雲ちゃん」
目元がほのかに歪む。
笑っているのであろう。
走って逃げることは、多分できない。
私はこの男から逃げられるほど速くないから。
「嫌です。そもそも貴方は誰なんですか。何故八雲にかまうのだ」
男は一歩こちらに近づく。
八雲は無駄だと分かりながらも、ランドセルの警報器に手を伸ばす。
「俺は陣内。どこにでもいる、危険な人間だよ」
黒く大きな手だった。
がっちりと捕まれて動かすこともできない。
男の目がまた歪む。
気持ち悪い目玉だ。
八雲は目を閉じる。
嫌いなものは見ないのだ。
私は綺麗なものだけが見たいから、目を閉じる。
でも、なんでこの陣内とかいう男は私を襲うのだろう。
何故今日なのだ。
今日は平和な日ではなかったのか。