未成熟の推察
第1章 ミク
「美味であったな」
「そうだな」
地上へと上がった二人は、夜の歌舞伎町をのんびり歩いた。
灰はこの眠らない街が好きだった。
風俗に興味はないが、人には関心がある。
夜の世界に生きる人々はどれも個性的で、見ていて飽きることはないのだった。
「お前、この街は怖くないのか」
「怖くない」
「大人しかいないんだぞ。襲われたらどうするつもりだったんだ」
「襲われたらそれまで。私の運命とか運勢がその程度だっただけのこと」
ミクは悟りを開いた釈迦のように穏やかだった。
強がりや見せかけの強さではなく、心の芯から声が出ている。
灰はさらにミクに価値を感じながら、依頼を受ける場所へと足を進める。
「仕事はできるな」
「できます」
「金は欲しいか」
「いらない」
「何を求める?」
「灰、お前が好きなものにお金を使ってくれ。私は拾われた手前、我が儘はあまり言わない」