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「再会」と呼べる「出会い」

第20章 見送る人

「…ふ」

冷たい指が俺の唇をなぞった。
ヤバい

何かが

俺の股間の辺りから沸き上がって

やばいやばいやばい 

「ごめんなさいね お待たせ」

「お うまそー」

タイミングいいんだかどうだか
おばちゃんがコロッケ定食を運んできた。

何事もなかったかのように
次朗は箸を出し、俺に差し出した。

「…さんきゅ」

「んー…この味噌の薫り
 落ち着く~
 ゆーちゃんいい店知ってるね」

次朗は嬉しそうに味噌汁をすすった。

「おいっしー」

他の客も、窓の向こうを歩く女の子も、
次朗のこの表情に見とれていた。

運んできてくれたおばちゃんも
頬を染めている。

こんなにモテるのも
分かんなくもねーけど。

ジェラシーよりは自慢に近かった。
彼女でもねーのに。
…ったくなんなんだよ俺は

「あーあ」

俺はコロッケに箸をつけた。
うまい、絶対に裏切らない味だ。


この店は
死んだ父がよく連れてきてくれた。
俺にとって大事な思い出の店だ。
父の死後は母とも何度か来た。
だから店の人とも顔なじみ

「優司君
 その後おかあさんの具合どう?」

「あぁ はい」

なじみがあるってことは
こういう話になるよな。

「最近来なかったでしょ
 心配だったのよね」

「なんとか」

「そう
 何か困ってることがあったら
 言ってね
 おかずくらいは用意するから」

「ありがとうございます」

「優司君来る度に雰囲気が変わるから
 最初は分からなかったのよ
 お友達も一緒なんて初めてよね」

おばちゃんは
おれが井崎建設の御曹司であることを知らない。

「そうなんだ」

「お前が初」

次朗が嬉しそうに微笑んだ。

「ゆっくりしてってね」

「ありがとうございます
 とっても美味しいです」

「まぁ…」

おばちゃんが
次朗の笑顔で色気づいた。

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