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色にでにけり 恋

第9章 マーメイド

遥暉のターンは水面の姿を見失うほど速く、静かだ。


今のターンにしても、
他のコースの学生から比べれば、
格段に丁寧で綺麗な筈だ。


しかし遥暉の本領には及ばなかった。

遥暉は身体が小さく筋肉も付きにくい体質で、
筋力に頼らない泳法を模索して
たどり着いたスタイルだ。


宮中の特徴は一人一人にあった練習メニューと指導によって、
個々の能力を最大限に活かすことだった。



成長期で変化しやすい時期にも関わらず、柔軟に変化し続ける遥暉の器用さには、スポーツに限らず皆が驚嘆した。


その器用さこそが、「スポーツが得意でない」といいながらも遥暉を表彰台へ導いたと上出は思っている。


取って付けた泳法で我武者羅に泳ぐだけでは記録は伸びやしない。



「なぜ、そんなに遥暉にこだわるんだ?」



上出は保坂の顔を見た。



「丸山が入部したくないなら、それでもいい。

もしかしたら丸山の泳法なら、
スランプから脱出できるかもしれないから。


海斗が・・・・丸山と俺は体格が似ている、って。


海斗がベタ惚れした人魚姫の泳ぎだから・・・。」



まさか、保坂海斗に見せるためにこのスタイルで泳ぎたいとでも言うのか。




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