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短編集。

第2章 客×花魁





それから、いつかの時が経ったある日。
あの男は、この吉原に姿を現した。


「何の用でありんすか」


僕は、冷たく言う。
せめてもの心姫への想い。


「なんで、そんなにカリカリしてんの?」


心配そうに僕を見る男。


「カリカリなどしてはおらぬ」


この人への気持ちを押し殺して。
この人との関係は断ち切ろう。


「へー。そんなこというの?」


にやっと笑う男。


「はよ、出ていきなんしぬしに用はない。
不快じゃ、ぬしの用な下郎者わっちにはあいんせん。」


男のヘラヘラ顔が固まる。
さすがに、言い過ぎただろうか。
不安に思って顔を覗く。


とすっ


「?」


一瞬何が起こったかは分からない。
でも、男の顔が目の前にある。手には温もりがある。


「本当に言ってるの?」


そう男はとう。


「…っ。邪魔じゃ…よけっ」


唇が言葉をいい終える前に塞がれる。


「んっ…ゃ、め…はな…んっ、む」

「はぁ、本当に言ってるの?」


真剣な顔を僕に向けて問う男。
僕は、頷いた。


「じゃあ、どうしてそんなに泣きそうなの?」


そう言って、男も泣いてしまうのではないかと思うほど悲しい顔をする。


「…本当に?」

「…そうじゃ、ぬしは邪魔じゃ!
お前の用なものいらぬ!心姫の次はわっちなのだろう?
心姫では足りず。わっちもどん底に落すのだろう??」


僕は泣きながら叫んだ。


「そんなこと…そんなことしない!
心姫は魅姫に近づくだけの関係だった。

それは、心姫だって知ってるはずだ!
俺は、ずっと魅姫のことだけを見てた。」


あまりにも、綺麗に泣きながら言う男に心が揺らいだ。
たぶん、もうこの人からは逃れなれないと思った。
そのあと、また夜をともにした。



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